グッバイ
筆をとるのは遺伝だったか。
いつも私は本音を隠しがちで、感情を抑えがちで、他者を拒みがちで。
そんな私のあの時の気持ちは本心なのだろうか。
明け方の病院の窓から見える朝日。
昨日と同じように鳴く鳥達の声。蝉の音。
今日もまた猛暑を予感させる、とある1日の始まり。
世界は何も違っていなかった。
神様は何も降らせてくれなかった。
それなのに、確かにあの時の私は
仕方なくもらった命を愛と呼んだのだ。
夢から覚めたような、悪夢が始まったような、何とも言えない一月を過ごし
何も変わらないと思い込んでいたはずの自分が、確かに変わっていくことを自覚している。
ああ、こうして人は大人になっていくのだ。
素直な気持ちを言えないまま笑ってみたりする大人気取り、ということだったか。
朝日はあれからまだ見ていない。
長風呂はあれから一度した。
夜の空を見上げて惚けるのは何度目か。
子供の頃よりも星の数が減っているように思えたが、
それでもやはり、私は人間が嫌いだ。